って弱っておられる校長先生の味方になる決心をされました。
……この頃では相当の人の手にかけて銅像を建てるとなると、胸像一つでも五千円や一万円はかかる。立像になれば二、三万円ぐらいは費用を見積らなければならない事。だから胸像だけでもまだまだ寄付金額が足りない……。
と言ったような事なぞをコソコソと説明してまわって、とうとう立像説を打毀し、もう出来上っている胸像を使って集まっている五千何百円の大部分を二人で山分けにする計画を完成して、校長先生をホッとおさせになったのでした。そのあげくに川村さんはあの廃屋の中でこう言われました。
「そこで来る三月の二十二日に今度の卒業生の謝恩会があります。その時に優等生に代表させて寄付金の金額を先生に捧げさせます。そこでその金を今一度、私にお預けになって、銅像建設に関する一切の事務を川村書記に任せると一言仰言って下さい。そこで私が壇上に上って、ちょうど有名な朝倉星雲先生が郷土の出身だから、製作方をお頼みする事にした。星雲先生は喜んで引き受けられたから、遠からず出来上って来るはずとか何とか報告して拍手させてしまえばもうこっちのものです。細工は粒々《りゅうりゅう》仕上げを御覧《ごろう》じです」
しかし私があの廃屋の中で聞いたお話は、そんなような仲のよいお話ばかりではありませんでした。時にはお二人ともかなり強い声で言い争われた事が、二度や三度ではありませんでした。そうしてそのお蔭で前に書きましたような、この学校のいろいろな秘密がだんだんとわかって来たのですが、しかしその揚句《あげく》はいつも校長先生の方が折れて、仲直りをなさるのでした。
「よしよし。ようわかった。帳面の責任は結局、君一人の責任になる訳だからね。無理は言わんよ。……いや。わかったわかった。わかったよ……。それじゃこれから二人で仲直りに、面白い処へ行こうか。あの温泉ホテルの三階なら、誰にも見つからないぜ君……」
「イヤ。もう今日は遅いですからモット近い処にしましょうや」
「なあにタクシーで飛ばせば訳はないよ。近い処はお互いの顔を知っとるからいかん。温泉ホテルの三階がええ。君はあの妓《こ》を連れて来たまえ。自由に享楽の出来るステキな処だぜ。知事や県視学も内々でチョイチョイ来るよ。吾輩の新発見なんだ」
「ヘエッ。そんなに贅沢《ぜいたく》な処ですか」
「贅沢にも何にもスッカリ南洋
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