さなくちゃならんというのが、日本の当局者の意向なんです」
「そう都合よくまいりましょうか」
「行きますとも。何よりも先にイギリスとイタリーとが戦端を開きさえすればいいのですから……」
「そんなに訳なく戦争を始めさせることが出来ますかしら」
「なんでもないことです。イタリーの空軍はズッと以前からイギリスを目標にして作戦を練って、イギリスをタタキつけさえすれば、イタリーはヨーロッパ一の強国になれると思っておりますし、イギリスの海軍はまた、背後の武器製造会社の大資本と一緒に張切って、国際連盟のイタリー制裁問題を中に挾んで睨み合っている最中ですから、トテモ都合がいいのです。この際スエズにいるイギリスの軍艦のドレでもいいから一艘、爆破さえすれば、直ぐにイタリーのせいだと思って戦争を始めます。西洋人は非常に激昂し易くて狼狽《ろうばい》し易いんですからね。米西戦争だってそうでしょう。アメリカの豚の罐詰会社が、戦争で一儲けしたさに、キューバにいるイスパニアの軍艦を爆破させたのがキッカケなんですからね」
「それじゃ貴方がたはスエズにいらっしゃるんですね」
「ええ……実はそうなんです。便宜上エチオピアと申
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