外の暗黒と一続きのままシンシンと夜半に近づいて行った。
 ……突然……部屋の隅の思いがけない方向で……コロロン、コロロン、コロリン……トロロロンンン……という優雅なオルゴールのような音がした。それは十時半を報ずる黄金製の置時計の音であった。
 すると、ちょうどそれを合図のように、部屋の中へ、眼も眩《くら》むほど明るい光線がパッとさし込んで来たように思われたので、今まであるかないかに呼吸《いき》を凝らしていた二人は、思わず小さな叫び声をあげてパッと左右に飛び退いた。二人とも申し合わせたように頭の上のシャンデリアを仰いだが、シャンデリアは依然として消えたままで、ただ数限りもない硝子の切子玉が、遠い遠い窓の外をキラキラと反射しているキリであった。
 二人はまたもヒッシと抱きあったまま、屹《きっ》となって窓の外を見た。
 見よ※[#感嘆符二つ、1−8−75]
 窓の外のポプラ並木の間から、遙か向うの暗黒の中に重なり合っていた選炭場、積込場、廃物の大クレーン、機械場、ポンプ場、捲上場《まきど》、トロ置場、ボタ捨場、燃滓《かす》捨場に至るまで、新張炭坑構内に何千何百となく並んでいた電灯と弧光灯が、
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