…という確信を得たように思った。

 一知はそれから後《のち》タッタ一度裁判にかけられた後に、未決監で首を縊《くく》って自殺してしまった。その結果深良家の財産は乙束区長が保管する事になったが、それでも、すこし良くなりかけた区長の病気が、一知の死後にブリ返して来て、泣きの涙のまま永病《ながわずら》いの床に就いてしまった。
 住み人《て》の無くなった深良屋敷は、それから間もない晩秋の大風で倒れてしまった。村の人々は……お蔭で青空が広くなったようだ……といって胸を撫で卸《おろ》している。
 マユミは区長の家で女中代りに働いているが、別段悲しそうな顔もしていないという。
 草川巡査は間もなく部長に昇進して、県警察部勤務を命ぜられる事になったが、同巡査はその前に辞職して故郷の山寺に帰ってしまった。惜し気もなく頭を丸めて父の僧職を嗣ぎ、村の公共事業なぞの世話を焼き始めた。
「あの時の辛かった事を思うと今でもゾッとして夢のような気持になる。理窟ではトテモ説明出来ないが自分はあの時以来、世の中が何となく厭《いや》になった。ドウセ罪亡ぼしに坊主になる運命であったのだろう。如何に憎むべき罪人とはいえ、あの
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