た不愉快さ、憂鬱さ、又は年老《としお》いてタヨリになる児《こ》を持ち得ない物淋しさ、情なさ、自烈度《じれった》さを、たまらない嫉妬心と一緒に飽く事なく新しい犠牲……若い、美しい一知に吹っかけて、どこまで行っても張合いのない……同時に世間へ持出しても絶対に通用しない自分達の誇りを満足させ、気を晴らそうとしているに相違ないのであった。そうして夜になると一知を、わざと蚊帳《かや》の無い台所に寝かし、マユミを中《なか》の間《ま》の蚊帳の中に寝させて、境目の重たい杉扉《すぎど》にガッチリと鍵をかけたものであった。するとマユミも亦《また》マユミで、何だかわからないまま両親の吩付《いいつ》けを固く守って、一知が時折コッソリと泣いて頼むのも聞かずに、一度も鍵を外してやらなかったので、一知は悩ましさの余りに昼の間じゅう死に物狂いに働いて、日が暮れると同時に前後不覚に眠るより他に自ら慰める方法が無くなった。そうして楽しみといっては唯、昼間のあいだ働いている最中だけ、マユミと一緒にいられる。どうかした場合に麦畑の中で汗ばんだ手を握り合う事が出来る位の事であった。又、勘定高い老夫婦も、そうした事を許しておけば
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