同時に忘れてしまったらしく、一家の経済の足しにならないような養子は、養子としての資格が無い……なぞいう事を公々然と一知の親類の前で宣言した。もちろんラジオだけは最初からの約束があるので、その当座の中《うち》は何とも云わなかったが、それでも何も知らない娘のマユミが珍らしさの余りに、一知が操《あやつ》っているラジオを覗きに行ったりするのが、オナリ婆さんの嫉妬をタマラなく刺戟したらしかった。いつも目敏《めざと》くマユミを監視して、一知に聞えよがしに訓戒した。
 ……アノ一知は貧乏者の借金持ちの子で、お前とは身分が違うのを、お前のお守《もり》と、家《うち》の田畠の番人に雇うてあるのだよ。いわばこの家《うち》の奴隷《おいはくり》で、尋常《あたりまえ》に雇うとお金を出さなければならないから、養子という事にしただけの人間だよ。だから、まだ籍も何も入れてない赤の他人で、一生懸命に働いて行くうちに、私達が死ねば、お礼にお前と、この家の財産《しんだい》を遣る口約束がしてあるだけの人間だよ。
 ……といったような言葉を日に増し手厳しく実行に移して来た。それは永年自分達夫婦が、金銭の奴隷として屈従しつくして来
前へ 次へ
全71ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング