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この手紙を見た鶴木検事は、直ぐに警察署へ電話をかけて重要な指令を下した。
その翌日のこと、事件当初の通りの係官の一行と、草川巡査と、区長と、村の青年たちの眼の前で、今まで誰も疑わなかった深良屋敷の肥料小舎の堆肥が徹底的に引っくり返されると、一番下の凝混土《コンクリート》に接する処の奥の方から、半腐りになったメリヤスの襯衣《シャツ》に包んだ、ボロボロの手袋と、靴下と、赤錆《あかさび》だらけの藁切庖丁が一梃出て来た。その三品《みしな》を新聞紙に包んで押収した係官の一行の背後姿《うしろすがた》を、区長も、青年も土のように血の気を喪《うしな》ったまま見送っていた。
兇器は甚しく錆ていたので血痕の検出が不可能であった。
しかしそれを突付けられた一知は思わず、
「……シマッタ……やられた……」
と叫んで悲し気に冷笑した切り、文句なしに服罪してしまった。そうして顔色一つ変えずに兇行の顛末を白状した。
一知は中学時代からマユミを恋していた。そうしてマユミを中心にした自分の一生涯の幸福の夢を色々と描いていたが、しかし生れ附き内気な、臆病者の一知は
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