検事は子供を労《いたわ》るように立上って、草川巡査の背中を撫でた。
「サアサア。早く帰り給え。人目に附くと悪い。……自動車を呼んで上げようか」
―――――――――――――
[#ここから1字下げ]
お父さん。色々御心配かけて済みません。僕は絶対的に青天白日です。村の人も僕の潔白を認めて下さると弁護士さんから聞きました、どれ位心強いかわかりません。マユミも引取って下さった由、何卒《なにとぞ》何卒よろしくお願い申上ます。この御恩は死んでも忘れません。
弁護士さんのお話によると僕はもう近い中《うち》に無罪放免になるそうですから帰ったら直ぐに働きます。この不名誉を拭い清めて、草川巡査を見返してやります。
ですから何もかも元の通りにして構わずに置いて下さい。蜜柑の消毒や、堆肥小舎の積みかえなぞもそのままにしておいて下さい。
マユミにもこの事を、よく云い聞かせておいて下さい。呉々《くれぐれ》も宜《よろ》しくお頼み申します。
どうぞ御病気を大切にして下さい。
左様なら。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]一知より
父上様
前へ
次へ
全71ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング