のを見ると、無理往生をさせる事にきめていたのだ。この間、区長さんがその事を問うてみたら、マユミさんが泣いて合点合点《がてんがてん》していた……などと真《まこと》しやかに云い触らす者さえ出て来た。
そんな噂に取巻かれた草川巡査は、前にも増して痩せ衰えて行った。何度行っても得るところの無い深良屋敷の空家の周囲をグルグルと巡廻したり、肥料小舎の入口にボンヤリと突立って、天井裏を見上げていたりした。又は山の中の小さな石の祠《ほこら》を引っくり返し、お狐様の穴に懐中電燈を突込んだりして、寝ても醒めても兇器の捜索に夢中になっていた。その中《うち》に九月の末になって、やっと開始された兇器捜索を目的の溜池乾《ためいけほし》で、草川巡査はあんまり夢中になり過ぎたのであろう。一人の青年の働き方が足りないといって泥だらけの平手で殴り付けたりしたので、可哀相に今度は草川巡査が発狂したという評判まで立てられるようになった。……にも拘《かか》わらず草川巡査の狂人に近い熱心な努力は近郷近在の溜池をまで残る隈なく及んだのであったが、それでも兇器らしいものすら発見出来なかったので、事件の神秘性は、いよいよ高まって行く
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