土佐絵《とさえ》の金屏風《きんびょうぶ》が建てまわされた。そうしてその土蔵の背後に在る畠境いの塵捨場《ごみすてば》には、珍らしい缶詰の殻や、西洋菓子の空箱や、葡萄酒の瓶なぞがアトからアトから散らかるようになった。そうして眼に痛い程明るい五十|燭《しょく》や百燭の電燈と、賑やかなラジオの金属音が、又もや毎晩毎晩丘の上から流れ落ち初めて、村の家々を羨ましがらせ、且《かつ》、悩ました。どうかすると十二時頃まで、奇妙な支那の歌声や、器楽の音なぞが、チイチイガアガア鳴り響くのであったが、それに気が付くたんびに村の人々は顔を見合わせた。
しかし、それでも夜が明けると一知夫婦はキチンキチンと仕事に精を出し、墓参りを怠らなかった。忌日忌日の法事も若いのに似合わず念入りに執行《とりおこな》って、村中の仁義|交誼《こうぎ》を怠らない気《け》ぶりを見せた。
これに反して草川巡査は日に増し憂鬱になって行った。心の奥底で何事かを煩悶しているらしく、高文の受験準備をやめてしまったばかりでない。夜通し眠らないような力無い鬱陶《うっとう》しい眼付をしてヒョロヒョロと巡回して歩く姿が、次第に村の者の眼に付くようにな
前へ
次へ
全71ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング