入れ違っているかのような奇妙な対照を作っていた。そのアトから腎臓病で腫《むく》んだ左右の顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》に梅干を貼った一知の父親の乙束《おとづか》区長が、長い頬髯《ほおひげ》を生した村医の神林先生や二三人の農夫と一緒に大慌てに慌てて走り上って来たが、物々しい一行の姿にスッカリ魘《おび》えてしまったらしく、一人も家の中に這入《はい》ろうとする者は無かった。今更の事のようにメソメソ泣きながら出迎えた一知夫婦と一緒に、一言も口を利かないまま、井戸端の混凝土《タタキ》の上に並んで突立って、検事や、予審判事や、警官連の行動をオドオドと見守ってばかりいた。
 一行の取調は極めて簡単であった。
 一行は既に区長の処へ立寄るか何かして色々の話を聞いて来ているらしく、馬酔司法主任が途中で一知をチョット物蔭へ呼んで、何かしら二三質問をしただけで、草川巡査の報告なぞは検事の耳に入る迄もなく、例によって例の如き司法主任の独断の前に一蹴《いっしゅう》され、冷笑されてしまったらしい。
 疑いもない強盗殺人で、新夫婦が熟睡して気付かぬ間に演ぜられた兇行に相違ない。そんな例は今ま 
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