には一パイに涙が溜っていた。
「ハイ……しかし……それは……今度の事と……何の関係も無い事です」
「うむうむ。そうかそうか。それでラジオの音に紛れてマユミさんと一緒に寝よったんか。ハハハ」
一知は頸低れたまま涙をポトポトと土間へ落した。微《かす》かにうなずいた。
「アハハハ。イヤ。そんな事はドウでも良《え》え。お前達が寝《ね》よる位置がわかれば良《え》えのじゃが……ところで、それにしても怪訝《おか》しいのう。二人とも犯人の通り筋に寝ておったのに、二人とも気付かなかったんか」
一知が深いタメ息をしいしい顔を上げた。
「ハイ。私が気付きませんければ……彼女《あいつ》は死人と同然で……寝ると直ぐにグウグウ……」
と云う中《うち》に又、赤い顔になって頸低れた。
「フム。毎晩、何時頃に寝るのかお前達は……」
「両親達はラジオを聴いてから一時間ばかりで寝附きますから、私たちが寝付くのはドウしても十二時過になっておりました。もっともこの頃は九時か十時ぐらいに寝ているようです。ラジオを止めましたから……」
「何故ラジオを止めたのかね」
「養母《おっか》さんが嫌いですから……」
と云う中《うち》
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