ては毀《こわ》し作っては毀しするので、彼の勉強部屋になっている区長の家《うち》の納屋の二階は、誰にもわからない器械器具の類で一パイになっていた。村の人々は、
「聴かぬためのラジオなら、作らん方が好《え》え。学者馬鹿たあ、よう云うたる」
と嘲笑し、両親も持て余して、好きにさせているという、一種の変り者で、いわばこの村の名物みたようになっているのが、この一知青年であった。
だからその一知が、牛九郎老夫婦の眼に止まって婿養子に所望されると、両親の乙束区長夫婦は一議にも及ばず承知した。一知もラジオ弄《いじ》りさえ許してもらえれば……という条件附で承知したもので、その纏まり方の電光石火式スピードというものは、万事に手緩《てぬる》い村の人々をアッと云わせたものであったが、それから又間もなく一知は、この村の習慣《しきたり》になっている物々しい婿入りの儀式を恥しがったものか、それともその式の当夜の乱暴な水祝《みずいわい》を忌避《いや》がったものか、双方の両親が大騒ぎをして準備を整えている二月の末の或る夜の事、自分の着物や、書物や、色々な器械屑なんぞを、こっそりとリヤカーに積んで、深良屋敷へ運び込み
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