《ほど》いてしまうと、
「サアサア。寒かったでしょうね」
 って云いながら、又、もとの通りに袋を冠《かぶ》せて口をシッカリ括《くく》ってしまったの。
 ええ……妾はちっとも手向いなぞしなかったわ。死人のようにグッタリとなって、ヤングのする通りになっていたわよ。
 その時のヤングの声の静かで悲しかったこと――ほんの一寸《ちょっと》の間《ま》だったけど、妾の胸にシミジミと融《と》け込んで、妾に何もかも忘れさしてしまったのよ。……何だか甘い、なつかしい夢でも見ているような気もちになってね……ネンネコ歌にあやされて眠って行く赤ん坊みたように、涙が止め度なく出て来たもんだから、妾はとうとう声を出してオイオイ泣き出しちゃったの。
「……ヤング……ヤング……」
 って云ってね……そうするとヤングは一々丁寧に返事をしいしい妾を袋に入れてしまってから、今一度妾の頭の処を、袋の上から撫でてくれたわ。
「……ね……ね……わかったでしょう、ワーニャさん。温柔《おとな》しくするんですよ。サアサア。もう泣かないで泣かないで。いいですか。ハイハイ。私がヤングですよ。いいですか。サ……泣かないで泣かないで」
 そう云
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