に切なくなって来ると、黒ん坊はとうとう妾の両足を捉まえて、足首の処を両手でギューと握り締めちゃったの。
そん時に妾は、初めて、大きな声を振り絞ったわ。両手を顔に当てて力一パイ反《そ》りかえりながら、
「助けて助けて助けて。ヤングヤングヤングヤング」
ってね。ええ……それあ大きな声だったわよ。咽喉《のど》が破れる位|呶鳴《どな》ってやったんですもの。そうして両足を押えられたまま、起き上っては反《そ》りかえり反りかえりして、固い床板の上に頭をブッ付け始めたの。死んだ方がいいと思ってね。
そうしたら黒ん坊もその勢いに驚いて、諦らめる気になったんでしょう。
「……ウウウウ……そんなに死にてえのかナア……」
って喘《あえ》ぎ喘ぎ云いながら、妾の両足を掴んで、床の上をズルズルと、片隅に引っぱって行くと思ったら、そこに置いてあったらしい細い針金《はりがね》で、足首の処から先にグルグルグルグルと巻き立てて、胸の処まで袋ごしに締め付けてしまったの……。
その時の苦しさったら、それあ、とてもお話ししたって解かりやしないわよ。だってチョットでも太い息をするか、動くかすると、すぐに長い細い針金が刃物みたいに喰い込んで、そこいら中の肉が切れて落ちそうになるんですもの……それでいて、いくら喘《あえ》いでも喘いでも喘ぎ切れない位息が切れているんですもの……妾はそのまま直ぐに気が遠くなっちゃった位なの。だけども又すぐに苦しまぎれに息を吹きかえすと、又もや火の付いたように針金が喰い込むでしょう。地獄の責め苦ってほんとうにあの事よ。そうして息も絶え絶えにヒイヒイ云っているうちに今度は本当に気絶してしまったらしいの。
それから何分経ったか、何時間経ったのかわからないけど、又自然と息を吹き返した時には、妾はもう半分死んだようになっていたようよ。手や足の痛さがわからなくなってしまってね。……そうして眼だけを大きく見開いてどこかを凝視《みつ》めていたようよ。だからその時に聞いた話も、夢みたように切れ切れにしか記憶《おぼ》えていないの。
「……どうでえ。綺麗な足じゃねえか」
「ウーム。黒人《ニガ》の野郎、こいつをせしめようなんて職過《しょくす》ぎらあ」
「面《つら》が歪《ゆが》んだくれえ安いもんだ。ハハン」
「しかし、よっぽど手酷《てひど》く暴れたんだな。あの好色《すけべえ》野郎が、こんなにまで手
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