抄)
 此処まで読んで来た津村はパッタリと本を閉じた。そのまま宙に吊るされたような恰好で、眼を上釣らせたまま調査部を出て行った。呆《あき》れて見送っていた調査部員が注意しなかったならば彼は、帽子を置き忘れて行ったかも知れない。
「これが……これが……種に苦しんだ活動屋の思い付きだろうか……星田の推理した『完全な犯罪』の真相だろうか……これが……これが……」
 津村は頭がジイーンと鳴り出したまま、こうした疑いを氷のように背骨に密着させて新聞社の階段を降りた。棒のように固くなったまま眼の前に停止したタクシーに乗り込んだ。



底本:「「探偵クラブ」傑作選 幻の探偵雑誌8」光文社文庫、光文社
   2001(平成13)年12月20日初版1刷発行
初出:「探偵クラブ」
   1932(昭和7)年12月号
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年4月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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