たいような気持になった。しかし依然として全身が硬直しているために、瞬《またたき》一つ出来なかった。
「……アハ……アハ……わかったか……貴様は……俺に恥掻かせた……ろうが……俺がどげな……人間か知らずに……アハ……」
「……………」
「……それじゃけに……それじゃけに……」
 と云いさして源次は、眼を真白く剥出《むきだ》したまま、ユックリと唇を噛んで、獣《けもの》のようにみっともなく流れ出る涎《よだれ》をゴックリと飲み込んだ。それを見ると福太郎も真似をするかのように唾液《つば》を飲み込みかけたが、下顎が石のように固《こわ》ばっていて、舌の尖端《さき》を動かすことすら出来なかった。
「……それじゃけに……それじゃけに……」
 と源次は又も喘《あえ》ぐように唇を動かした。
「……それじゃけに……引導をば……渡《わた》いてくれたとぞ……貴様を……殺《ころ》いたとは……このオレサマぞ……アハ……アハ……」
「……………」
「……お作は……モウ……俺の物ぞ……あの世から見とれ……俺がお作を……ドウするか……」
「……………」
「……ああハアハア……ザマを……見い……」
 そう云ううちに源次は今一
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