三人が、男に飛付いた。メチャメチャに殴り付けた。
そこへ二三人の警官が、質屋の娘と一所に駈付けた。銀金具の鳶口《とびぐち》を持った親方も遣って来た。
警官は万平の顔に懐中電燈を突付けるとプッと噴出《ふきだ》した。
「何だ貴様は、最前の気違いじゃないか」
万平はハダカった胸を繕《つくろ》って腕マクリをした。まだ昂奮しているらしく奮然と詰寄った。
「……ナ……何が気違《きちげ》えだ。憚《はばか》んながら……」
親方が万平を遮り止めて睨み付けた。
「馬鹿……手前《てめえ》の風態《ざま》を見ろ……気違《きちげ》えでなけあ何だ……」
皆、可笑《おか》しさを我慢していた。
やっと月が出かかってそこいら中が明るくなって来た。背後《うしろ》の方で粂公《くめこう》が太いタメ息を吐《つ》いた。
「ナアンデエ。やっぱり万公か。俺《おら》あ動物園の熊が逃げて来たんかと思った」
皆ゲラゲラと笑い出した。
警官は男に手錠をかけた。材木の下からタイルの褌包みと短刀を拾い出した。親方と、万平と、娘を連れて警察へ帰った。直ぐに丸柿質店へ電話をかけた。
俎橋《まないたばし》の警察に駈付けて来た禿頭《と
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