顔を上げて枕元に置いた羽子板を見ると、ビックリしました。美しい姉さんは、いつの間にか羽子板を抜け出して枕元に座って、頬ペタの大きく凹んだ処を押えてシクシク泣いています。
花子さんは思わず飛起《とびお》きて、飛び付きました。
「あら、姉様、堪忍して頂戴。妾《わたし》が悪いのですから」
と泣き声を出してあやまりましたが、姉さんは中々眼をあけません。奇麗な袖で顔を押えて、シクシク泣いているばかりです。花子さんはどうしようかと思いました。
ところへどこからか、
「それは花子さんが悪いのではない。私が悪いのです」
と云うしわがれた声が聞えました。驚いて姉さんと花子さんとが顔を挙げてそちらを見ますと、それは恐ろしい、真黒い、骸骨のような木乃伊《ミイラ》でした。
木乃伊は赤と青の美しい着物を引きずって、恐ろしさにふるえている姉さんと花子さんの傍へしずしずと近寄りながら、白い歯を出してニッコリ笑いました。
「御心配なさいますな。私が姉さんの頬の凹《へこ》んだ処はきっと直して上げます」
と云ううちに二人を抱き上げて、赤と青の着物をパッと広げると、そのまま大空はるかに舞い上りました。
二人は
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