夢のようになって抱かれて行きますと、木乃伊の青と赤の着物は雲の中をひるがえりひるがえり、お太陽《てんと》様も星も月もはるか足の下にして飛んで行きます。やがて下の方に三角の塔や椰子《やし》の樹や大きな川や繁華な都が見えて来ました。木乃伊はそれを指して、
「あれが私の故郷のエジプトの都です。三角の塔はピラミッドで、川はナイル河という河です」
と云う中《うち》に、都の中《うち》で一番大きな建て物の窓から中へ降りて行きました。その時気が付きますと、木乃伊はいつの間にか当り前の人間の、しかも立派な王様の姿にかわっておりました。
王様はニッコリ笑って申しました。
「私はこのエジプトの王ラメスというものです。昨日、花子さんが私の生まれ代りの羽子のムクロジにあたたかい息を何べんもはきかけて下さいましたので、二千年も昔に生き返る事が出来たのです。その御礼《おんれい》に今日は国中の者を集めて御馳走をします」
やがて三人は眼もまばゆい大広間に来ると、王様を真中に、姉さんは右に、花子さんは左に腰をかけました。
先ずこの国第一のお医者が来て姉さんの鼻をフッと吹きますと、姉さんの頬ペタは忽ちもとの通りにふくらみました。それから、二人ではとても食べ切れぬ程の珍らしい御馳走をいただきました。それから、この国中の踊りの名人の舞踏を見せてもらいました。
とうとうおしまいには王様も堪《たま》らなくなったとみえて、
「久し振りだからおれも一つ踊ろう」
と飛び出して踊り出しました。
その時王様はこう云って唄いました。
ヒイラ、フウラ、ミイラよ
ミイラの王様お眼ざめだ
赤い青いおべべ着て
黒いあたまをふり立てて
はねたり飛んだりまわったり
五ついつまでいつまでも
むかしのまんまのひとおどり
なんでもかんでも無我夢中
やめずにとめずに九《ここの》とう
とうとう日が暮れ夜が明けて
いつまで経《た》っても松の内
花子さんも羽子板の姉さんも夢中になって見ておりますと、王様の踊りはだんだんはげしくなって、次第次第に高く飛び上って、とうとう大広間の天井を突《つき》破って、虚空はるかに飛び上って、どこへ行ったか見えなくなってしまいました。
ハッと思って気がつきますと、夜が明けて、花子さんは矢張り寝床の中にいて、羽子と羽子板をしっかりと抱いているのでした。
羽子板の姉さんの頬はいつの
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