得るのか……この種の小説で純日本式の気分を取り扱ったものとしては谷崎潤一郎のものを読んだ記憶があるだけであるが、これは又、全然、別世界を作った純真、純美なものではないか……と思うと、感激とも感謝とも形容の出来ない、タマラナイ読後感に囚われて、眼を大きく大きく見開きながら、いつまでもいつまでも同じクラ闇を凝視させられた事でした。
 私は、こうして初めて乱歩氏の偉大さを知ったのでした。硝子《ガラス》窓が深夜にワナワナとふるえるようなポーのペンに対して、眼の球《たま》が白昼にトロトロと流れ落ちるような乱歩氏の筆が対立している事を初めて知ったのでした。
 ポーが地上に残したモノスゴイ薬品のにおいに対して、乱歩氏が生み出すオドロオドロしい黒砂糖の風味が存在している事を、生れて初めて教えられたのでした。
 私はソレ以来、江戸川乱歩というペンネームの安っぽさを、忘れてしまったのでした。そうして、それと同時に……かどうかわかりませんが……日本人のこうした種類の作品を、いつの間にか軽蔑しないようになっていたのでした。
 大変に失礼な引例のしかたですが、正直のところ、小酒井不木氏の「恋愛曲線」を読んで、乱
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