ました。その中でも、被害者が毒を飲まされてから息を引き取る迄の手みじかな、平気な描写は、描写ではない真実の光景として、覗いている節穴の形と一所に、今でも私の眼に滲《し》みついております。
 これに反して「パノラマ島奇譚」では、ほとんど初めからおしまいまでスッカリ失望させられてしまいました。前半の作者の苦心や、後半の作者の気持ちよさが、どこまでもアクドク受け取られただけで、私としての収穫は、コンクリートの柱から引き出された女の髪の毛一本だけと云ってもよいのでした。
 けれども最近に「蟲」を読みました時には、乱歩氏の頭脳のスゴサに徹底的にハネ飛ばされてしまった感じがしました。
 もっとも「蟲」の主人公が殺人を遂行する迄の筋道は何となく冗長なようで、あまり感心しませんでした。しかもその冗長さは、乱歩氏独特の気味のわるいネバリを持ったものでなくて、幾分固くるしいような感じのものでした。
 それから今一つその終末に、主人公が屍体に爪と頭を打ち込むところで、何となく「余計な真似」というような感じがしました。これが乱歩氏の特徴で、同時に弱点に相違ない。「悪夢」の結末ではこうした頭の余力?が全体を悪夢
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