こびました。それと一緒に太郎さんはおうちのまわりをクルクルまわって、
「ポチよ、ポチよ」
 と呼んでいましたが見つかりませんので、ベソをかいて帰って来ました。そうして今度はお庭の隅にポチのお墓をこしらえ始めました。
 花子さんはそれを見て、
「お兄様、お人形が焼けなかったからポチもきっと無事ですよ。お墓を作るのはおよしなさい」
 と慰めましたが、太郎さんはきかずにお墓を作ってお水を上げて拝んでいました。
 するとその晩おそくワンワンワンとはげしく犬が吠える声と一緒に、
「痛い痛い。畜生。ア痛た痛た。助けてくれ」
 と言ううちに、バタバタと誰か逃げて行く音がしました。
 太郎さんは一番に飛び起きて、
「ポチだ、ポチだ」
 と表へ飛び出しました。お父様もお母様も花子さんも驚いてみんな表へ出ますと、泥棒のようななりをした大男が犬に食いつかれて跛《びっこ》を引き引き向うへ逃げて行きます。そのあとからポチが一所懸命吠えながら追っかけて行きますと、やがて泥棒は通りかかったお巡査《まわり》さんに捕まってしまいました。
 帰って来たポチを見ると、太郎さんは抱きついて嬉し泣きをしました。
「えらい、えら
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