月蝕
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鋼《はがね》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「石+鬼」、第4水準2−82−48]《かたまり》
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   ★

鋼《はがね》のように澄みわたる大空のまん中で
月がすすり泣いている。
………けがらわしい地球の陰影《かげ》が
自分の顔にうつるとて…………
それを大勢の人間から見られるとて…………
…………身ぶるいして嫌がっている。

   ★

………しかし………
逃れられぬ暗い運命は…………
刻々に彼女に迫って来る。
大空のただ中に…………

   ★

……はじまった……
月蝕が…………

   ★

彼女はいつとなく死相をあらわして来た。
水々しい生白い頬…………
……目に見えぬ髪毛を、長々と地平線まで引きはえた………
それが冷たく……美しく……透きとおる……
 コメカミのあたりから水気《すいき》が…………ヒッソリとしたたる。

   ★

彼女はもう…………
仕方がないとあきらめて

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