★

その中にただ一つ残る白い光…………
彼女の額と鼻すじが
もうすこしで…………
黒い刃《やいば》の蔭に蔽われそうになった。

   ★

空一面の夥《おびただ》しい星が
小さな声で囁《ささや》き合って
又ヒッソリと静まった。

   ★

陰惨な最後の時…………
顔を蔽いつくす血の下に
観念して閉じていた白い瞼を
パッチリと彼女は見開いた。

   ★

案外に平気な顔で
下界の人々を流し眼に見まわした
ニッコリと笑った。

   ★

…………ホホホホホホホ……
これはお芝居なのよ。
……大空の影と光りの……。
だから妾《わたし》は痛くも苦しくも………
……何ともないのよ…………
そうしてもうじきおしまいになるのよ。

   ★

…………でも皆さんホントになすったでしょう。
……あたし名優でしょう……
オホホホホホ……………

   ★

ではサヨウナラ…………
みなさんおやすみなさい。
……ホホホホホ……………………
ホホホホホ……………………………



底本:「夢野久作全集3」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平成4)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「日本探偵小
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