タノデショウ。
記者様――
アノ鯉幟ノ棹ハ、私ガ酔ッタ勢イデ立テタモノデスガ、ソレガ記者様ノオ眼ニ止マッテ、コンナ不孝ナ恥ヲ晒《さら》ソウトハ夢ニモ思イマセンデシタ。シカシ私ハ、ドナタ様モ怨ミマセン。何モカモ、私ガ修養ガ足リナイタメニ、起ッタ事デス。私ハ皆様ニ対シテ申訳アリマセンカラ自殺シマス。ドウゾコノ大馬鹿者ノ最期ヲ、アナタノ筆デ、デキルダケ大キク世間ニ発表シテ下サイ。御社ノ御繁栄ヲ祈リマス。
[#ここで字下げ終わり]
  五月十一日[#地から2字上げ]花房敬吾

  福岡時報 記者様』

 編輯長は、洋半紙に鉛筆で書いたこの手紙を、私の前に投げ出しながらフフンと笑った。
「ツイ今しがた来たんだ。その男はその手紙をポストに入れると、嬶《かかあ》の墓に参って、幟の細引を首に捲いて、鯉と一緒にブランコ往生をしていたんだ。二時間ばかり前に、あの松原を通った下り列車の乗客が見つけたんだがね、足下にウイスキーの小瓶がタタキ付けたったそうだよ……ハハハハハ」
 私は茫然として編輯長の顔を凝視した。編輯長はやはり冷笑を浮めながら云った。
「君の筆もだいぶ立つようになったね」
 私は笑いもドウもし
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