して来た。そこで頭山先生|懐中《ふところ》から股倉へ手を突込んで探ってみると、何かしら柔らかいものがブラリと下っている。抓《つま》んで引っぱってみると、すぐにプツリと切れてしまった。股倉から手を出してみるといかにも名前の通りに白い、平べったい、サナダ紐《ひも》みたいなものが一寸ばかりブラブラしている。
 見ると目の前に、見事な金|蒔絵《まきえ》をした桐の丸胴の火鉢があったので、頭山先生その丸胴の縁《ふち》に件《くだん》のサナダ虫を横たえた。進藤喜平太氏も不審に思って覗いてみたが、何やらわからないので知らん顔をしていたという。
 そのうちに又、頭山先生のお尻の穴がムズムズして来たので、又手を突込んで引っぱると、今度は二寸ばかりの奴が切れ離れて来たヤツを、やはり眼の前の火鉢の縁へ、前の一片《ひときれ》と並べておいた。察するに頭山先生いい退屈|凌《しの》ぎを見付けたつもりであったろう。悠々と股倉へ手を突込んでは一寸、又二寸とサナダ虫の断片を取出して、火鉢の縁へ並べ初めた。
 誰でも知っている通りサナダ虫は一|丈《じょう》も二丈もある上に、短かい節々のつながりが非常に切れ易いので、全部を引出し
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