《おっしゃ》るのですか。これは怪《け》しからん。通ったにも通らぬにも甲の上ダラケの優等生で……ヘエ。
十五になって高等小学校を出ると直ぐに紺飛白《こんがすり》の筒ッポを着て、母様《かかさん》の臍繰《へそくり》をば仏壇の引出から掴み出いて、柳町へ走って行きましたが、可愛がられましたなあ。『小《ちん》か哥兄《あんちゃん》小《ちん》か哥兄《あんちゃん》』ち云うと息の止まる程、花魁に抱き締められましたなあ。ハハハ。帰りがけに真鍮の指環《いびがね》をば一個《ひとつ》花魁から貰いましたが、その嬉しさというものは生れて初めてで御座いました。日本一の色男になったつもりで家《うち》へ帰っても胸がドキドキして眼の中が熱《あっ》つうなります。そこで上り框《かまち》に腰をかけて懐中《ふっくら》からその貰うた指環をば出いて、掌《てのひら》の中央《まんなか》へ乗せて、タメツ、スガメツ引っくり返《かや》いておりますと、背後《うしろ》からヌキ足さし足、覗いて見た親父《おやじ》が、大きな拳骨で私の頭をゴツウ――ンと一つ啖《く》らわせました。その拍子に大切《だいじ》な指環がどこかへ飛んで行《い》てしまいました。
私は
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