方が無理だ。奇行が相手の天性なら、それを書きたいのがこっちの生れ付きだから是非もない。サイドカーと広告球《アドバルン》を衝突させたがる人間の多い世の中である。お互いに運の尽きと諦めるさ。
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   頭山満


 ナアーンダ。奇人快人というから、どんな珍物が出て来るかと思ったら頭山《とうやま》先生が出て来た。第一あんまり有名過ぎるじゃないか。あんなのを奇人快人の店に並べる手はない。明治史の裡面に蟠踞《ばんきょ》する浪人界の巨頭じゃないか。維新後の政界の力石《ちからいし》じゃないか。歴代内閣の総理大臣で、この先生にジロリと睨《にら》まれて縮み上らなかった者は一人も居ない偉人じゃないか……とか何とか文句を云う者が大多数であろう。
 ……怪《け》しからん。頭山先生を雑誌の晒《さら》し物にするとは不埒《ふらち》な奴じゃ。頭山先生は現代の聖人、昭和維新の原動力だ。そんな無礼な奴は絞め上げるがヨカ……とか何とか腕まくりをして来る黒切符組もないとは限らないが、まあまあ待ったり。話せばわかる。
 筆者のお眼にかかった頭山先生は、御自身で、御自身を現代の聖人とも、昭和維新の原動力とも、何と
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