へ行きゃあ花魁《おいらん》の顔見ん内に懲役に行くぞ」
「ああ、そうか」
「とりあえずお寺へ行こうお寺へ行こう」
「仁三郎は何宗かい」
「仁三郎が宗旨を構うかいか」
「そんなら成丈《なるた》け景気のええお寺へ行こう」
「あッ。向うで太鼓をば敲《たた》きよる。あすこが良かろう」
「よし来た。行け行け。アーリャアーリャアーリャ。馬じゃ馬じゃ馬じゃ馬じゃい」
「エート。モシモシ和尚《おしょう》さんえ和尚さんえ。一寸すみませんがア……お葬式の色直しイ。裏を返せばエー」
「いらん事云うな、俺が談判して来る」
博多|蓮池《はすいけ》町○○寺の和尚は捌《さば》けた坊主であったらしい。
「どうも後口《あとくち》が悪うて悪うてまあだムカムカします。一ツ景気のえいところで一ツコキつけて、つかあさい」
という交渉を心よく引受けた。直《すぐ》に中僧小僧をかり集めて本堂の正面に棺を据え、香を焚《た》いて朗かに合唱し始めた。
「我昔所造諸悪業《がしゃくしょぞうしょあくごう》――一切我今皆懺悔《いっさいがこんかいざんげ》エエ――」
まだ面喰っている小僧が棒を取り上げて勢よくブッ附けた。
「グワ――アアアンンン……」
一同グッタリと頭を下げた。
「あッ。あああ……これで、ようよう元手《もと》取った」
底本:「夢野久作全集11」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年12月3日第1刷発行
底本の親本:「近世快人伝」黒白書房
1935(昭和10)年12月20日発行
初出:「新青年」
1935(昭和10)年4月号〜10月号
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2006年7月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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