と見られた時に、スッカリ感違いをしてしまったんだね。元来が主義にカブレた青二才で、ホントの悪党じゃなかったもんだから、ほんの一時の自惚《うぬぼ》れから身を滅ぼしてしまった訳だ。
手錠をかけたアトで例の手紙を見せると大深は、青い顔になってうなずいた。
「馬鹿だなあ……この手紙を他人《ひと》に見せるなんて……もっとも俺の方がよっぽど馬鹿だったんだが……アハハハ……」
と空虚《うつろ》な高笑いをしたっけ。実にサッパリしたいい度胸だったが、聞いてる吾々は笑おうにも笑えない気持がしたよ。
むろん癪《しゃく》に障っていたから大深の就縛は新聞社には知らせなかった。そのまま暗《やみ》から暗《やみ》へと死刑になってしまったが、可哀そうなのは愛子で、それから後《のち》チョイチョイ大深へ差入れなんかをしていたらしい。そうして彼が死刑になった事が新聞に出た晩に、自宅の台所で首を縊《くく》って死んでしまった。
遺書も何もなかったので原因はわからないが、自分の口一つから金兵衛を殺し、又大深を殺した事がわかったので、すっかり悲観して思い詰めてしまったんじゃないかと思う。
何……君にはわかっている……?
愛子は最初、大深に初恋を感じていたのを自分でも気付かずにいたんだ。それがあの手紙を見て焦《こ》げ付くほど燃え上った。そうして大深の死刑と一緒にこの世が暗闇《くらやみ》になった。
ふうん。恐ろしい間《ま》だるっこい惚れ方をしたもんじゃないか。惚れていた事がわかるまでに人間を二人も殺してさあ。
ふうん。ほんとうに純真な、内気な女なんてソンナもんだ、そこがこの話のスゴイところだ……小説になるところだっていうのかね。
アハハ。成る程ねえ……。
底本:「夢野久作全集10」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年10月22日第1刷発行
入力:柴田卓治
校正:ちはる
2000年12月18日公開
2006年2月23日修正
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