抱して待っていないと、叔父さんが又ドンナ悪企みをして、お前の生命《いのち》を取りに来るか解らない。しかしこの鉄筋コンクリートの室《へや》に隠れていれば、誰も近づく事は出来ないからってネ……そう云って下すったから、妾スッカリ安心して、ここに隠れているのよ。そのうちに青ネクタイ氏が、キット会いに来て下さると思ってネ……楽しみにして待っていたのよ……。
そうしたら可笑《おか》しいの……まあ聞いて頂戴《ちょうだい》……この頃ヤット気が付いたの……。
ここの院長さんこそ名探偵の青ネクタイ氏なのよ。……ホラ御覧なさい。誰だってビックリするにきまっているわ。妾だってオンナジ事よ。あんなに頭が禿《はげ》ていらっしゃるのでチットも気が付かなかったのよ。
でもこの頃、窓の前をお通りになるたんびに青いネクタイを締めていらっしゃるでしょう。新しい……派手なダンダラ縞《じま》の……ネ。ですからもしやそうじゃないかと思って気を付けていたらヤットわかったのよ。
妾、感謝しちゃったわ。あんなにまで苦心して、妾を保護して下さるんですもの……。
何故ってあの禿頭《はげあたま》は変装なのよ。仮髪《かつら》なのよ。オホホホホホ。可笑しいでしょう。妾はチャンと知っているけど知らん顔をしているの。でも時々可笑しくて仕様がなくなるのよ。
あんな禿頭の人と結婚するのかと思ってね。ホホホホホホ。ハハハハハハ……。
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崑崙茶《こんろんちゃ》
婦長さん……看護婦長さん。チョットお願いがあるんです。ちょっと来て下さい。大至急のお願いが……。
あのね……耳を貸して下さい。済みませんが……。
……僕の不眠症の原因がわかったんです。ここへ入院してからというもの、どうしても眠れなかった原因が……。
僕は飛んでもない呪詛《のろい》にかかっているのです。イイエ。虚構《うそ》じゃありません。卒業論文なんかに呪詛《のろ》われて、神経衰弱にかかったんじゃありません。別にチャンとした原因があるのです。事実の証拠が眼の前に在るのです。
僕はね……ビックリしちゃいけませんよ。僕はね。すぐ横のベッドに寝ている支那の留学生ね。アイツに呪詛われているのですよ。あいつに呪詛われて殺されかけているのです。ですからこの室《へや》に居たら到底助かりっこないのです。
エッ……どの支那人かって……? ……ホラ…
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