て今までの親不孝が身に沁みてわかった銀次は、そこでタッタ一人の叔父の藤六が、九州の直方で酒屋をやっているという話を風のタヨリに聞いたので、そのまま門司まで便船で来て、やっとここまで辿《たど》り付いたところで御座います……と云って又泣いた。
 そんな話は皆、藤六の戸籍謄本とピッタリ一致した。殊に日に焼けてこそおれ若い銀次の人相から骨組が、見れば見る程死んだ藤六に似ている事がわかったので、巡査は勿論、通夜の連中もモウ銀次を疑わなかった。それどころでなく、これも仏の引合わせとか何とかいうのでスッカリ感激した一同は、直ぐに銀次を引っぱり上げて施主の席に座らせた。銀次が仏の顔を見て又もサメザメと泣いている間に、皆ヒソヒソと耳打ちし合って、いくらかのお鳥目《ちょうもく》を出し合って包んだりした。
 それから間もなく、銀次が程近い町の顔役の所へ、お礼の挨拶に行って帰って来ると、通夜の席が又賑やかになった。銀次は明日《あす》から私がこの店を引継ぐように親分さんへも御挨拶して来ました。どうぞよろしく……というので巡査を上席に据えて盛んに酒を出した。そうして翌る朝になると銀次は、酔い倒れた連中を背負ってソ
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