…ソンナような反感も、ヒイヤリと流れかかる層雲の一角を突破して行くうちに、あとかたもなく消え失せて行った。そうして、あとには二千五百|米突《メートル》を示す高度計と、不思議なほど静かなプロペラの唸《うな》りと、何ともいえず好調子なスパークの霊感だけが残っていた。
 ……この11機はトテモ素敵だぞ……。
 ……もう三百キロを突破しているのにこの静かさはドウダ……。
 ……おまけにコンナ日にはエア・ポケツもない筈だからナ……。
 ……層雲が無ければここいらで一つ、高等飛行をやって驚かしてくれるんだがナア……。
 ……なぞと思い続けながら、軽い上げ舵を取って行くうちに、私はフト、私の脚下二三百米突の処に在る層雲の上を、11機の投影が高くなり、低くなりつつ相並んで辷《すべ》って行くのを発見した。
 それを見ると流石《さすが》に飛行慣れた私も、何ともいえない嬉しさを感じない訳に行かなかった。大空のただ中で、空の征服者のみが感じ得る、澄み切った満足をシミジミ味わずにはいられなかった。……真に子供らしい……胸のドキドキする……。
 ……二千五百の高度……。
 ……静かなプロペラのうなり……。
 ……
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