うな予感がしたので……。けれども、まだ半廻転もしないうちに、私はハッと全身を強直さした。
 ツイ私の背後の鼻の先に、いつの間に立ち現われたものか、何ともいえない奇妙な恰好《かっこう》をした海藻の森が、涯《は》てしもない砂丘の起伏を背景にして迫り近付いている。
 ……海藻の森……その一本一本は、それぞれ五六尺から一|丈《じょう》ぐらいある。頭のまん丸いホンダワラのような楕円形をした……その根元の縊《くく》れたところから細い紐《ひも》で海底に繋がっている。並んだり重なり合ったりしながら、お墓のように垂直に突立っている。蒼白《あおじろ》い、燐光《りんこう》の中に、真黒く、ハッキリと……数えてみると合計七本あった。
 私は唖然《あぜん》となった。取りあえずドキンドキンと心臓の鼓動を高めながら、二三歩ゆるゆると後《あと》じさりをした。
 するとその巨大な海藻の一群《ひとむれ》の中でも、私に一番近い一本の中から人間の声が洩れ聞えて来た。
 低い、カスレた声であった。
「モシモシ……」
 私は全身の骨が一つ一つ氷のように冷え固まるのを感じた。同時に、その声の正体はわからないまま、この上もなく恐ろしい
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