み直した。そんな途方もない、想像の及ばない出来事に対する予感を、心の奥底で冷笑しつつ、高い天井のアカリ取り窓を仰いだ。そこから斜めに、青空はるかに黒煙を吐き出す煙突を見上げた。その斜《ななめ》に傾いた煙突の半面が、旭《あさひ》のオリーブ色をクッキリと輝かしながら、今にも頭の上に倒れかかって来るような錯覚の眩暈《めまい》を感じつつ、頭を強く左右に振った。
私は、私の父親が頓死《とんし》をしたために、まだ学士になったばかりの無経験のまま、この工場を受け継がせられた……そうしてタッタ今、生れて初めての実地作業を指揮すべく、引っぱり出されたのである。若い、新米《しんまい》の主人に対する職工たちの侮辱と、冷罵《れいば》とを予期させられつつ……。
しかし私の負けじ魂は、そんな不吉な予感のすべてを、腹の底の底の方へ押し隠してしまった。誇りかな気軽い態度で、バットを横啣《よこぐわ》えにしいしい、持場持場についている職工たちの白い呼吸を見まわした。
私の眼の前には巨大なフライトホイールが、黒い虹《にじ》のようにピカピカと微笑している。
その向うに消え残っている昨夜からの暗黒の中には、大小の歯車
前へ
次へ
全26ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング