した。いつの間にか地平線の端まで来てしまった。……足の下は無限の空虚である。
私は慌てた。一生懸命で踏み止《とど》まろうとした。その拍子に足を踏み辷らして硝子の舗道の上に身体《からだ》をタタキ付けたので、そのまま血だらけの両手を突張って、自分の身体を支え止めようとしたが、しかし今まで辷って来た惰力が承知しなかった。私の身体はそのまま一直線に地平線の端から、辷り出して無限の空間に真逆様《まっさかさま》に落込んだ。
私は歯噛みをした。虚空を掴んだ。手足を縦横ムジンに振りまわした。しかし私は何物も掴むことが出来なかった。
その時に一直線に切れた地平線の端から、探偵の顔がニュッと覗いた。落ちて行く私の顔を見下しながら、白い歯を一パイに剥き出した。
「わかったか……貴様を硝子の世界から逐《お》い出すのが、俺の目的だったのだぞ」
「……………」
初めて計られた事を知った私は、無念さの余り両手を顔に当てた。大きな声でオイオイ泣き出しながら無限の空間を、どこまでもどこまでも落ちて行った……。
底本:「夢野久作全集3」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年8月24日 第1刷発行
底本の親本:「瓶詰地獄」日本小説文庫、春陽堂
1933(昭和8)年5月15日発行
入力:柴田卓治
校正:しず
2000年6月9日公開
2006年3月7日修正
青空文庫作成ファイル:
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