ち》の新聞を二三通り取り寄せまして、次から次へと繰り返して見たので御座いますが、私の事につきましていろいろと出ております新聞記事と申しますのが又いずれ一つとして私の心を責めさいなまぬものは御座いませんでした。
あの、丸の内演芸館で催されました明治音楽会の春季大会の席上で、突然に私が喀血《かっけつ》致しまして、程近い綜合病院に入院致しますと、その夜のうちに行方《ゆくえ》不明になりました事に就《つ》きまして、新聞社や、そのほかの皆様から寄せて頂いております御同情の勿体《もったい》なさ。それから又、最後までお世話になっておりました岡沢先生御夫婦の親身も及びませぬ痛々しい御心配なぞ……そうして、そのような中に、とりわけても貴方様が、あの時から後《のち》、心ならずも貴方様から離れて行きました私の罪をお咎《とが》めになりませぬのみか、数《かず》ならぬ私の事を舞台を休んでまで御心配下さいまして、いろいろと手を尽して私の行方をお探しになっておりますうちに、思いもかけませず私と同じように喀血をなされました。そうして同じ丸の内の綜合病院に、御入院になりまして、私の名前を呼びつづけておいで遊ばすという事を
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