の探偵を応用して、主人のポケットや袂を探るようなヤボな手段を決して採られませんでした。そうして最もあたらしい……恐らく未来の探偵界を支配するであろうところの心理的な探偵方法……所謂《いわゆる》第三等の訊問法以上に合理的な、且《か》つ高等な訊問方法を用いて、御主人の隠れ遊びの有無を一々的確に探知されるのでした。
 すなわちマダムは、もっとも優れたる心理表現の観察者たるべく、その基礎的練習をはじめられました。
 ところで、すべての場合に於て、探偵が嫌疑者もしくは犯人に対して或る感情を持つ……憎んだり、同情をしたりするという事が、その観察や判断をあやまつ根本原因となるであろう事は申すまでもありません。一般の御婦人方は何よりも先にこの意味において、その御良人《おつれあい》の性行の公明なる審判者たる資格を喪失しておられるので、そのために、いつも、正義と純愛の高潮さるべき場面を、犬も喰わない水掛論や、猫まで逃げ出す家庭争議の場面と化して行かれつつある事はまことに是非もない次第と申上《もうしあ》ぐべきでありましょう。
 この辺の機微に通じておられましたマダムは、ですからまず御主人に惚れる事を中止され
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