こうして猿小僧の御蔭で十三人の子供は皆無事で都に着いて、両親や兄弟に会う事が出来たが、皆の者の喜びは譬《たと》えようもなかった。中にも王様は小僧を御殿のお庭に呼び寄せて、太子を助けてくれた御褒美にと云って、いろいろのものを賜わったが、小僧はお金や着物なぞはちっとも欲しがらずに、只喰べ物ばかりを欲張った。そして、あまり嬉しかったので、逆立ちをしたり筋斗《とんぼ》返りをしてお眼にかけた。王様も大層お喜びで、今日からこの小僧に乞食をやめさせて、御殿の中《うち》に抱えてやれとお言葉があった。
 それから小僧は御殿の中《うち》でお湯に入れられて、美しい着物を着せられて、いろいろな礼儀や学問を教えられたが、小僧はそんな事は大嫌いであった。その中《うち》でも、広い長い重たい着物を着せられるのが一番|厭《いや》で、うっかりするとお付の者の眼を盗んで直《すぐ》に下着一枚になって、御殿の屋根の上を駈けまわった。それから夜はどうしても寝床の中に寝ないで、王様の馬小屋の藁の中に寝た。その馬は王様を載せるのが自慢で、「自分が通ると、人間が皆頭を下《さげ》る」と小僧に話して聞かせた。
「それだからお前は馬鹿なんだ
前へ 次へ
全14ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング