仕事を一応聞き取った私は、やっと隣の室《へや》に這入《はい》って、熱海検事以下数名立会の上で、もう一度岩形氏の変死体を検査する段取りになった
 その検査の結果は大要|左《さ》の通りである。むろんこの記述は前の記述と重複するところが少なくないのであるが、この紳士の死状、その他の外表的徴候は、ずっと後《のち》までもこの事件と、呉井嬢次と名乗る怪少年に関する重大な秘密の扉を、順々に開いて行く鍵になっているのだから、念のために記憶に残っている中《うち》で必要と認める全部を、初めから繰返して箇条書にしておく。その中《うち》でも特に注意を要する諸点(中には私が何の気も付かずに見のがしていて、あとで大失策を演じてから、やっと気が付いたようなデリケートの事実もある)には一々黒点を施して、これを参考にして行けば岩形氏の変死に関する秘密が、裏から裏へと解けて行くようにしておいた。

   岩形氏の死状[#ゴシック体]

 ◆屍体が発見された場所 東京駅ステーション・ホテル第十四号特別寝室。
 ◆死亡推定時間 大正七年十月十四日午前零時前後。
 ◆屍体発見当時の室内の状況 電燈は点けたまま。窓も明け放したま
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