属していたというのだから、私が驚いたのは無理もないであろう。腹の底から唸り出したのは当然であろう。
 私は暫くの間、瞑目して考えた後《のち》に、おもむろに眼を見開いて少年の顔を見た。
 少年も私の顔をじっと見ていたが、その眼の底には一種の光りが流れていた。
「……それでは君はあの曲馬団から脱け出して来たのですね」
「ハイ。あの曲馬団は私の敵ですから」
 この少年の言葉には今までと違った凜々《りん》とした響があった。私は躍る心を押えながら、一層大きく眼を※[#「※」は「目+爭」、第3水準1−88−85、46−10]《みは》った。
「どうしてあの曲馬団が敵なのですか」
「あの曲馬団長のバード・ストーンは私の両親を苛め殺したのです。直接に手を当てて殺す以上に非道《ひど》い眼に会わして殺したのです」
「……フーム……それはどんな手段で……」
 少年は答えなかった。いかにも無念そうに唇をきっと結んだまま、私が持っていた曙新聞を受け取って、同じ一昨年の十月十四日の夕刊の社会面を開いて、前の広告と同様の赤丸を施した標題《みだし》を指さし示した。それは初号活字三段抜きの大標題で、次のような記事が殆んど
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