影……美しい女の姿……暗い静かな声は、次第次第にゴンクール氏の魂を包んで行った。「死んだ者の怨みの声」を聞き「眼に見えぬ執念の手」に触れられるこの世の外《ほか》の世界へ、一歩一歩引き込んで行く。
 抵抗しようにも相手のない「この世の外《ほか》の力」……その力はゴンクール氏の魂をしっかりと握り締めて、次第次第に死の世界へと引っぱり寄せて行く。
 手を押えられたのならば振り放す事が出来る。足を捉えられたのならば蹴飛ばす事が出来る。牢に入れられたのならば破ることが出来る、けれども魂を捕えられた者は逃げようがない。仮令《たとえ》宇宙の外に逃げる事が出来ても魂が自分のものである以上、捕えた手はどこまでも随《つ》いてくる。しかもその魂を捉えている手は影法師と同様の力のない手である。……ゴンクール氏の魂は唯、空《くう》に藻掻《もが》くばかりであった。
 涯てしもない恐怖によって絞り出された、生命そのものの冷たい汗に濡れた氏の顔面は、蒼白い燐火のような光りを反映し、その赤味がかった髪の毛は、囚われた霊魂の必死の煩悶と苦悩のために一|呼吸毎《いきごと》に白く枯れて行くかと思われた。それでも氏はなおも最後
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