、自分と全然違った世界に居た者である事を拳銃《ピストル》を突き付けてみた後《のち》にやっと気付いたのであった。
 その世界……女の居る世界は、氏がまだ見た事も聞いた事も……想像した事すらない……この世のあらゆるものの権威……あらゆるものの価値を認めぬ……すべての光明……すべての感情を認めぬ、静かな、淋しい、涯てもない暗黒の世界であった。この無名の女の姿はその中から自分を脅かし、自分の旧悪を責めるために現われた一つの美しい幻影に過ぎなかった。
 氏は驚き、恐れ、眼を※[#「※」は「目+爭」、第3水準1−88−85、330−15]《みは》り、口を開いて喘《あえ》いだ。頬や首すじを粟立たせ、五体をわななかせて震え上った。
 けれども女の声は、闇黒の底を流れて、人の心を誘う水のように、どこまでも冷たく、清らかに続いて行った。
「……けれどもゴンクール様……。嬢次様のお怨みは、それだけではなかったのでございます。貴方がたを日本の警視庁の手で片付けて頂いた位では嬢次様の御無念は晴れなかったのでございます。
 ……貴方は二年前に志村様がお亡くなりになった時の事を御記憶になっているでございましょう。そ
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