葉を口にしないようである。しかも女がこんな事を云い出す時は、大抵日当りのいい障子《しょうじ》の側で、静かに縫い物か何かしている時で、ばたばたと忙《せわ》しく働いている時は余り云わぬ。ところで誰でも知っている通り女が縫い物をする時は、眼を絶え間なく小さな針の先に注いでいるために、気持ちが平生《ふだん》よりもずっと澄み切っていて、只いろいろと取り止めもない夢のような事を考えている。つまり女の頭の中には、平生《いつも》の常識的な、理窟ばった考えは微塵《みじん》もなくなって、人間世界を遠く離れたうっとりした気持ちになっている。こんな時が第六感の最も鋭く働く時で、女はその澄み切ったあたまの中に、いつとなく一人の客人が遠くから、自分の家《うち》に向って動いて来るのを感じている。しかしそれは先から先へとめぐって行くシャボン玉より軽い、夢より淡《うす》い空想の蔭になって動いているので、女にはまだハッキリと意識されていない。……そこへぱっと黒い影が障子を横切る。女ははっと思う。夢のシャボン玉がふっと消える。その下から客人が来る……という第六感がまざまざと現われる。そこで女は思わず云う……
「あれ鳥影がさ
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