黙の裡《うち》に拡大強力化して、世界の脅威ともいうべきソビエットの唯物文化を鼻の先にあしらおうとしている。
 一方に米国で催された国際オリンピック競技では、さしもに列国が歯を立て得なかった水上の強豪、米国の覇権を、名もない日本の小|河童連《かっぱれん》の手でタタキ落させ、何の苦もなく世界の水上王国の栄冠を奪い取らせるなぞ、胸の空《す》くような痛快な波紋を高々と、近代史上に蹴上げている。
 こうした母国の意気組を、はるかに巴里《パリー》の片隅から眺めていると、片足を棺桶《かんおけ》に突込んでいる私でさえ、真に血湧き肉躍るばかりである。日本の若い連中はもう、自分達が人類文化を指導しているつもりで、シャッポを阿弥陀にしていはしまいかと思われる位である。
 しかし十年|前《ぜん》……私が警視庁に奉職していた前後の日本はナカナカそんな暢気《のんき》な沙汰ではなかった。現在のように列国と大人並に交際《つきあ》って行くどころの騒ぎではない。赤ん坊扱いにされまいとして悲鳴をあげている時代であった。英米の高圧外交にかかって、ひねり殺されたくないばっかりに、必死的なストラグルを続けているという、見っともな
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