プの愉快な調子に変った。これは演技が初まった事を知らせるので、この音楽に連れて楽屋の入口から、馬と美人が入れ違いに並んで、踊りながら出て来るのであろう。
 私は無言のまま、死力を尽して羽がい締めから脱け出そうとしたが無効であった。私の力量は庁内でも有名なもので、狭山は鉄の棒を曲げるとまで云われていた。鬼という綽名《あだな》も一つはそうした意味で附けられたのであるが、このハドルスキーの金剛力には遠く及ばなかった。彼は籐椅子《とういす》を一つ抱える位の力で私を締め上げている事が、明かに私の背中に感じられた。そうして自信のある柔道の手を施す術《すべ》もないうちに私の両肩は、巨大な噛締機《バイト》にかかったように痺《しび》れ上って、抵抗する力もなくなってしまったばかりでなく、肋骨がメリメリと音を立てて千切《ちぎ》れて行くような……今にも肺臓が引き裂かれて、呼吸《いき》が止まりそうな大苦痛を感じ初めたのであった。
 ……死ぬのだ……俺は殺されるのだ……楽屋に連れて行かれて……。
 ……そうした絶望的な予感が二三度頭の中に閃めいて、私の抵抗力を無理に振い起させた。私はただ力なく藻掻きまわった。
 
前へ 次へ
全471ページ中284ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング