、入口に突立っている巡査は古い顔|馴染《なじみ》であったが、一寸《ちょっと》胡散《うさん》臭そうな眼付きをして私を見送っただけで、横の方を向いてしまった。変装はしていたが眼付が違っていたために掏摸《すり》とでも思ったのであろう。私はそのまま円形の見物席の背後を廻って、割合に人の疎《まば》らな正面の特等席の中央《まんなか》あたりの空席に腰を卸《おろ》した。
 見上ぐれば、曲馬場内の五個所から斜めに突き出た軍艦のマストに擬《まが》う大支柱と、その大支柱から分岐した数十本の小支柱とで、巧みに釣り上げられた大天幕の穹窿《きゅうりゅう》の無数の隙間からは、晴れ渡った空の光りが、星のように、又は七宝細工のように眩《まぶ》しく場内に降り落ちて来る。
 その真中の一番高い処から、大きな鳥の姿を金糸で刺繍《ししゅう》にした三間四方もあろうかと思われる真紅の大旗が垂らしてあるが、その近所の天幕の穴が特別に眩しいために、何の鳥だかはっきりとわからない。
 直径三十間以上もあろうかと思われる場内は隅から隅まで光線が明るく行き渡っている。ただ入口に近い側の天幕の斜面には、一面に午後の日ざしが照りかかっていて、そ
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