をしてしまったのです。そうして日本へ来るとすぐに、僕の想像を実験してみたらすっかり当っている事がわかったばかりでなく、永い間気になっていた自分の両親の名前を思いがけなく探し出す事が出来たのです」
 少年は感慨深く言葉を切った。しかし私は机に両肘を張ったまま、云うべき言葉を発見し得なかった。二三度|唾液《つば》を呑み込んでから辛うじて、
「……それは……どうして……」
 と呟いたきりであった。
 しかし少年はやはり眼を伏せたまま、淋しそうに言葉を続けた。
「……僕は日本に着いて散歩を許されるとすぐに、あのステーション・ホテルへ行って、十四号室を泊らないなりに一週間の約束で借りきってしまったのです。そうしてホテルのボーイや支配人に二年前の出来事の模様を出来るだけ詳しく話してもらいまして、あの室《へや》の寝台から室《へや》の飾り付までちっとも変っていない事を確かめてから、あの寝台の上に父が死んだ時の通りに寝てみたのです」
「どうして……」
 と私は又おなじ言葉をくり返した。
「……どうって訳はないんですけど……あの時の死状《しにかた》が、新聞に書いてある通りだと、何だか変テコでしようがなかっ
前へ 次へ
全471ページ中192ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング