まして、妾が何故に斯様に一生懸命になって貴女《あなた》の御一身の事を心配致しますかという、その理由を説明しましょう――と申しまして、妾に病気欠勤をさせて自身に運転して来ました自動車に乗せ、多摩川附近までドライヴを致しました。
 この時に樫尾から承わりましたJ・I・Cの真相が、どのような恐ろしい、残忍非道なものでございましたかは貴方様のお察しに任せます。いずれに致しましても、前に申上げました表面的な主義主張とは全くうらはら[#「うらはら」に傍点]の実情でございまして、詳しくお話し申上げたいのは山々でございますが、あまり長く相成りますから併せて略させて頂きます。
 妾はその話の一々に就きまして思い当る事ばかりでございましたのみならず、永年尋ね求めておりました伜《せがれ》の嬢次が、紐育《ニューヨーク》の郵便局に奉職致しておりますことが最近J・I・Cに判明致しまして、人知れず人質同様の監視を受けております状態で、妾の素振によりましては、その生命を代償として、妾を威嚇致します準備が整っております旨を承わりました妾は、余りの恐ろしさに魂も身に添わず、病気のように相成りましてこの教会に引返《ひっかえ
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